
循環型社会の実現に向けて

北九州市は、歴史的に鉄鋼などの重工業の発展に基づいて発展してきた。工業成長期に発生した深刻な環境汚染への対応に成功し、環境にやさしい都市として国際的にも評価されている。重工業の衰退を経験した市は、次世代産業のひとつとして「環境リサイクル産業」を推進した。一方、大量生産・大量廃棄により、日本全国で廃棄物量が増加していた。こうした廃棄物問題に対応するため、北九州市は「北九州エコタウン計画」を策定し、1997年に「エコタウン事業」の第1号として国の認定を受けた。このプロジェクトは、北九州市の経済、社会、環境に好影響をもたらした。
コンテクスト
対処すべき課題
北九州市の重工業は、当初は経済的繁栄をもたらしたが、同時に深刻な環境問題を引き起こした。市民、特に小さな子どもを持つ母親たちは立ち上がり、官民の協力のもとこの問題に取り組んだ。彼らの集団的アプローチの結果、環境は大幅に改善され、同時に経済成長も実現した。1980年代には、経済不況と国際市場での激しい競争による重工業の衰退に伴い、市は別の課題に直面した。この地域の従来型産業の企業は競争力の低下に苦しみ、複合産業構造への転換が必要となった。
所在地
プロセス
プロセスの概要
地元企業の強力な基盤やインフラが利用可能であること、地元経済が基幹産業の性格を変えることが急務であること、地域社会が公教育とリスク・コミュニケーションに歴史的かつ継続的に取り組んできたこと、これらすべてが、さまざまな利害関係者が(動機は異なるとはいえ)共通の目標を追求するために一堂に会する形で、時宜を得た形で整ったのである。
ビルディング・ブロック
既存の技術とインフラシステムの活用
北九州市は、同市の旧産業開発時代に磨かれた技術、インフラ、物流システムを持つ旧産業クラスターの恩恵を受けることができる。これらの既存の資産は、新しいリサイクル産業に適応され、あるいは再利用された。また、町の近くには、長距離輸送の必要がないリサイクル品に対する需要もあった。その結果、リサイクル産業がエコタウンに集中しているため、リサイクル施設の立地に関する取引コストは低下した。
実現可能な要因
- 産業のための蓄積された資源とインフラ;
- 響灘には産業と廃棄物処理に利用できる広大な土地と施設がある。
- リサイクルに適応できる多様な基本技術
- リサイクル品の市場に地理的に近い。
教訓
国内の多くの技術、インフラ、物流システムは、以前の産業開発時代に洗練されたものだ。これらは、豊富な知識とノウハウをもって、郊外の広大な土地に産業集積を形成してきた。現在の社会的・経済的ニーズを満たすために、これらの確立された生態系は、リサイクル産業やエコタウンのような次世代産業の集積へと変化していく可能性がある。
複数のステークホルダーの連携で基幹産業のあり方を変える
北九州市のエコタウン成功の鍵は、行政、民間企業、学界、市民のパートナーシップにあった。官民が協力してリサイクル産業を確立したのは、1997年のエコタウン・プロジェクト開始以前からである。例えば、後にエコタウン形成の中心的企業のひとつとなる鉄鋼会社は、旧態依然としたビジネスを、リサイクルを含む新しい複合産業構造へと転換させた。市や他の民間団体と協力し、ペットボトルのリサイクルを事業化したのである。そのため、エコタウン構想や循環型社会形成に向けた国の方針が発表されたとき、北九州市はこれを歓迎し、スタートラインに立った。また、北九州市は、エコタウン事業や廃棄物管理のための新しい手法や技術を提供する研究機関と協力関係にある。市民によるプロジェクトへの賛同も、持続可能なプロジェクト実施のための重要な要素である。
実現可能な要因
- 複数の利害関係者の異なる利害を調整し、共通の目標を追求する。
- 地域の取り組みに補助金を提供するエコタウン開発に関する国のプログラム
- 市民、自治体、企業の協力ネットワーク
教訓
リサイクル製品の市場が未熟であるため、新たな産業クラスターを拡大するための公的な取り組みが必要である。一方、民間企業の最先端技術や知識は、企業の利益と公共の利益の双方を高める革新的なリサイクル活動にとって不可欠な要素である。このように、政府、民間企業、学界、市民が緊密なパートナーシップを構築することは、健全な循環型社会の実現に寄与するものである。
影響
経済効果:2015年の資料によると、エコタウン・プロジェクトの総投資額は約660億円、従業員数は1,400人。1998年から2012年までの累計来場者数は約100万人。また、2001年に特別税「環境未来税」が導入され、2004年には52億円の税収があった。
社会的インパクト:2015年までに約100万人がエコタウンを訪れた。2012年だけでも海外から約4,000人が訪れた。啓蒙・普及活動は、長期的には住民の環境意識の向上につながる。住民の環境意識が高まることで、ゴミを減らし、環境負荷を減らす努力をするようになり、行動にも影響を与えるようになるのだ。また、北九州市がエコタウンをきっかけに国際的にも国内的にも認知され、住民の行政に対する好感度が高まったことも興味深い。
環境への影響:エコタウン・プロジェクトにより、1996年には31.5%であった埋立ゴミを2001年にはわずか10.5%に削減することに成功し、リサイクル率も1991年の40%から2001年には61.7%に向上した。エコタウン・プロジェクトは、年間38万トンのCO2削減にも貢献した。
受益者
- 北九州市民
- 北九州市の民間企業
持続可能な開発目標
ストーリー
北九州エコタウンプロジェクト
1997年から北九州市響灘地区で行われている「北九州エコタウンプロジェクト」。廃棄物を他の産業の原料として再利用することで「ゼロ・エミッション」を推進し、資源循環型社会の形成を目指す。北九州市は、これらの目的を達成し、環境産業の創出と産業化を推進するため、基礎研究技術開発、試験、産業化に関する複数の総合戦略を策定した。基礎研究と教育は、国内外のさまざまな研究機関を受け入れる北九州学術研究都市(KSRP)で行われている。実践的な研究は、研究機関と民間企業が集積する実験研究地区(6.5ha)で行われる。特に、最終処分場やリサイクル、有害物質の無害化に関する技術について実験的な研究が行われている。響灘地区では、北九州市が総合環境施設を建設した。北九州市は、響灘地区に総合環境複合施設を建設した。2005年以降、8つのプロジェクトが稼働し、20haのエリア全体が埋まっている。響灘地区には、マテリアルリサイクルやエネルギーリサイクルのほか、自動車リサイクル施設や中小企業リサイクル事業者も誘致している。また、エコタウンなどから排出される残渣を処理するための処理施設も複数建設され、このエリアから廃棄物は発生しない。これらの処理施設は熱供給も行っており、響灘地区では2003年から風力発電も稼働している。エコタウン事業には、フィージビリティ・スタディ、展示会、住民や企業への情報提供などにかかる費用の50%を上限として補助する「エコタウン・ソフト補助金」と、リサイクル施設の建設・管理費用の33~50%を上限として補助する「エコタウン・ハード補助金」がある。また、北九州市では、このエコタウン事業を含む環境関連施策を実施するための持続可能な予算を確保するため、「環境未来税」という税金を導入している。環境未来税は、産業廃棄物を埋立処分する際に課税される特別地方交付税である。中間処理には課税されないため、企業のリサイクル活動を促進し、廃棄物の発生を抑制する効果も期待されている。