世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」(日本)の管理における宗教的・伝統的スチュワードシップの統合

フル・ソリューション
三重県紀伊山地の霊場と参詣道
Fumihiko Ito

日本の「紀伊山地の霊場と参詣道」は、基準(ii)(iii)(iv)(vi)に基づき、2004年に世界遺産リストに文化的景観として登録された。登録物件には、吉野熊野国立公園の一部、国際自然保護連合(IUCN)の保護地域カテゴリーII、大台ケ原山・大峰山・大杉谷ユネスコ生物圏保存地域の核心部、日本の文化財保護法で保護されている名勝、史跡、国宝、天然記念物が含まれる。熊野三山は、日本で最も重要な3つの宗教の中心地である:熊野三山の神道、高野山の真言宗、吉野・大峯の修験道、そしてそれらを結ぶ参詣道である。自然的、文化的価値と保護システムが相互に関連し合うこのような複雑な土地の管理は、その神聖な価値と、この地域に存在する宗教的、地域的コミュニティの継続的なスチュワードシップに依存している。

最終更新日 05 May 2021
5035 ビュー
コンテクスト
対処すべき課題
干ばつ
洪水
土地と森林の劣化
社会文化的背景の変化

紀伊山地の文化的景観の保護は、その複雑さゆえに管理上の難題となっている:隣接する3つの県にまたがり、多様な自然・文化資源を何重にも保護する必要があるため、さまざまな利害関係者の調整が必要となる。

この土地には、日本の3大宗教を代表する3つの霊山がある。異なる宗教団体の調整は重要な課題である。

各宗教団体は、それぞれの地域内の原生林やその他の森林を管理している。これらは継続的に維持・管理される必要がある。原生林、宗教的聖域、巡礼路を囲む二次林の維持管理も同様に重要である。

これらの宗教団体の管理下にない巡礼路は、放置するとすぐに雑草や倒木が生い茂り、巡礼者や観光客が立ち入ることができなくなる。

実施規模
ローカル
サブナショナル
エコシステム
アグロフォレストリー
温帯落葉樹林
温帯照葉樹林
プール、湖、池
川、小川
建物と施設
テーマ
保護・保全地域ガバナンス
地元の俳優
伝統的知識
文化
森林管理
観光
世界遺産
所在地
日本、三重
東アジア
プロセス
プロセスの概要

世界遺産(BB1)の国境を越えた管理体制が確立されたことで、異なる宗教団体間の協力が可能になった。各宗教団体が管理する森林と寺院は、巡礼路によって結ばれている。巡礼路は、その所有権に大きなばらつきがあるため、政府によって保護され、また地元コミュニティによって保護されている。これらすべての自然的・文化的要素の維持は、宗教団体だけでなく、その地域に住む地域社会にとっても精神的価値があることに基づいている。巡礼路を維持する伝統(BB4)も、地域社会に根ざした二次林の保護(BB3)も、日本の伝統的な自然保護の文化と結びついている。

ビルディング・ブロック
世界遺産の越境統治機構

文化庁が施行する文化財保護法の指定文化財を含むほか、環境省が管理する吉野熊野国立公園と、それに関連する和歌山県、奈良県、三重県の区域を含む:和歌山、奈良、三重の3県とその自治体が管理している。世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」三県協議会は、世界遺産登録を目指すために設立され、登録後は保全活動の調整や管理計画の策定を担当している。三県知事が会長・副会長、市町村長・教育長が委員を務める。文化庁はオブザーバーとして参加している。文化財の保護については、各都道府県の文化財保護・地域振興課や市町村の担当者と連携している。 また、各分野の専門家で構成される学術委員会の助言を受けている。

実現可能な要因

紀伊山地の霊場と参詣道」の世界遺産登録に3県と政府が強い関心を示したことで、各県と自然保護を担当する政府機関との間に、世界遺産登録を推進するためのパートナーシップが築かれた。

教訓

登録時の世界遺産委員会の勧告に基づき、3県は包括的な保存管理計画を策定し、3県協議会が中心となって保存管理を行う体制を確立した。この制度は、「霊場と芸術の源泉(富士山)」のように、日本のいくつかの県が世界遺産登録を推薦し、その保全管理を行う方法に大きな影響を与えた。

神聖な場所(森林や寺院)の管理について、宗教団体に自治権を認める。

紀伊山地の霊場が(国立公園の一部として)文化遺産と自然遺産に指定され、後に生物圏保護区に含まれ、最終的に世界遺産の一部となるまでの全過程を通じて、宗教団体は、宗教的信念と神聖な価値観に基づき、何世紀にもわたって伝えられてきた伝統的知識に従って、その保護と管理を公式に認められてきた。例えば、原生林はその神聖な性格から、さまざまな宗教団体によって厳格な伐採禁止のもとに保護されてきた。 真言宗では、山の風景は物質化された「曼荼羅」と解釈され、修験者はこれらの自然環境の中で巡礼や修行を行うことによって「曼荼羅」を再現している。巡礼者にとって、紀伊山地は地上の楽園である。もうひとつの例は、文化財保護法の「天然記念物」に指定され、熊野那智大社が聖地の一部として管理している那智の聖なる森である。那智の滝は神聖視されている。つまり、聖なる水に触れたり、迂回させたりすることはできない。

実現可能な要因
  • 自然の神聖さの信念に基づく永続的な文化的慣習、伝統的知識、地域知識。
  • 文化財保護法や自然公園法に基づく法的保護は、宗教に基づく保護と矛盾する枠組みを課すことなく、伝統的な自然と人間の関係を後退させ、維持するように設計されている。
教訓
  • 紀伊山地の原生林は、1,000年以上もの間、神聖さによって守られてきた。宗教的スチュワードシップが森林保全の伝統を実践し続けることが、保全プロセスを促進する。
  • 原生林を継続的に保護するためには、伝統的な知識と地元の人々の精神的価値を守ることが重要である。
伝統的なコミュニティによる二次林保護の継続

紀伊山地の森林地帯のほとんどが植林されているのは、この地域が伝統的に伐採のための場所だったからだ。樹木は50年から100年ごとに伐採され、伐採後、人々は小さな木を植える。この伝統的な伐採戦略は、16世紀以来、種子の採取、植栽、植栽密度、間伐、伐採といった伝統的な技術のもとで行われてきた。奈良県も森林環境保全税を導入し、市町村を通じてボランティアや民間団体と協力して放置林の伐採に取り組んでいる。放置された森林には、林業に適したスギやヒノキなどの針葉樹ではなく、広葉樹を植え替え、針葉樹と広葉樹の混交林を将来的に人の手が入らない森林へと転換している。伝統的な植林や伐採と並行して、紀伊山地の森林や森林景観を持続可能な形で維持していこうとしている。

実現可能な要因
  • この地域で何世紀にもわたって行われてきた伝統的な伐採と、この伝統の継続性
  • この伝統を継続するための政府や関係当局からの支援
教訓
  • 近年、木材需要の減少、コストの上昇、後継者不足などにより、林業従事者は減少の一途をたどっている。また、放置林が増加しており、これが植栽密度を抑制する主な原因となっている。その結果、森林の生態系が変化し、下草が茂らないために土壌浸食が進み、土砂崩れや洪水、干ばつなどの災害を誘発する危険性が高まっている。
  • 近年、再生可能エネルギーが推進され、太陽光発電や風力発電施設の建設が進められている。その結果、大規模な森林伐採が進み、世界遺産の保全への影響が懸念されている。世界遺産との共存のためにも、これらの施設の建設に関する情報収集やガイドラインの作成など、事前の調整体制を整える必要がある。
巡礼路の参加型保全

巡礼路は、その場所によって、個人、地方自治体、国などが所有し、維持管理を行っている。また、地域住民やNPO(非営利組織)などが参画して、遍路道の修復や保全、維持管理を行っているところもある。例えば、伊勢路巡礼道では多くの保存会が活動し、旧道が残る峠道を毎日清掃している。また、台風や大雨の後のパトロールにも協力している。これらの活動は報告書にまとめられ、各市町村教育委員会を経由して各都道府県教育委員会に提出される。

実現可能な要因
  • 日本の文化は、公共空間を大切にし、地域社会全体のためになることを重視し、環境に対する強い帰属意識と思いやりを支えている。
  • 市民がボランティア活動に参加しやすくなるよう、寄付金の収集や配布など、政府やその他の機関が支援する。
教訓
  • 行政はボランティア活動を始める市民に協力する。
  • 世界遺産では、許可が必要な活動もある。これはボランティアと行政が事前に確認する必要がある。
影響

1.環境への影響

  • 原生林の効果的かつ継続的な保護。例えば、那智原始林はこの地域を代表する月桂樹林のひとつで、面積は32ヘクタール。ヒノキシイ、ウラジロガシなどの高木が密生しているだけでなく、シダやミズナラなどの林床植物も豊富で、貴重な森林である。また、大峰山系の最高峰のひとつである佛教ヶ岳原生林は、面積9ヘクタールで、亜高山帯のヴェイチ林などの常緑針葉樹で構成されている。

2.経済的・環境的影響

  • 二次林の持続可能な利用
  • 持続可能な観光開発

3.社会的影響

  • コミュニティの結束
  • 伝統的知識の保護
  • 地域や伝統的な文化的・宗教的慣習の保護
受益者

地域社会、各宗教の礼拝者、巡礼者、観光客

持続可能な開発目標
SDG11「持続可能な都市とコミュニティ
SDG 15 - 陸上での生活
ストーリー
三重県
台風後の覆土除去
Mie Prefecture

私は県職員として、この世界遺産の保全に携わっている。私のキャリアの中で最も忘れられない出来事のひとつは、2011年の台風災害である。

9月4日、台風がこの地域を襲った:鉄道は破壊され、国道は寸断され、紀伊山地のあちこちで土砂崩れが発生した。特に巡礼路の被害は深刻だった。

月7日、市の担当者から電話があった。世界遺産に被害が出ているとのことだった。震災の中、まだ被害状況を確認するための見回りが続いていた。地元のボランティアが巡礼路を巡回していた。一緒に100キロ離れた県庁に情報を送った。

月8日、国道は開通した。私は車で世界遺産に向かった。ボランティアたちが巡礼路の清掃や倒木の撤去を始めていた。

川に浮かぶ聖なる島のシンボルだった巨木も流されていた。所有者である神社の宮司は、植樹による修復を申し出た。

また、世界遺産の緩衝地帯に属し、所有者と森林組合が管理している参詣道周辺の二次林にも被害があった。彼らは倒木を取り除き、苗木を植えることを申し出た。

その間に、私は国と交渉し、大きな被害を受けた地域の復旧計画に資金を提供することができた。

しばらくして、最初に電話をくれた市役所の職員が、「世界遺産のコンセプトを勉強したい。世界遺産を守るためにもっといい仕事ができるようになりたい "と。修復を一緒に検討していた仲間に相談し、3県、市、国の関係者を集めてワークショップを開くことにした。こうしたワークショップは10年後も続いている。

紀伊山地の霊場と参詣道」は、3県、市町村、ボランティア、宗教者、林業者など、さまざまな人々の努力によって守られている。保護は、関係者の対話、相互学習、協力によって達成される。そうした人々の努力を忘れてはならない。(三重県・伊藤文彦)

寄稿者とつながる
その他の貢献者
石澤 摩耶
ICCROM-IUCN 世界遺産リーダーシップ