
地下水のガバナンス

熊本地方は、全水供給量のほぼ100%を占める豊富な地下水の恩恵を受けてきた。これを可能にしたのは、主に以下の3つの要因である:1)約600km2という広大な地下水盆、2)火山活動によって形成された独特の土壌層による雨水の浸透しやすさと巨大な貯留量、3)年間降水量が比較的多いこと、である。しかし、近年、都市化による水消費量の増加や降雨浸透量の低下などにより、地下水量が減少している。地下水資源を持続可能な形で管理・保全するため、流域の10以上の自治体からなるグループは、地下水を管理するための包括的な計画を策定した。また、政府、企業、住民が出資する財団が、地下水保全のためのさまざまなプロジェクトや研究活動を財政的に支援している。
コンテクスト
対処すべき課題
概して、地下水管理は以下のような課題に直面している:
- 地下水が異なる自治体にまたがって存在し、地下水そのものを追跡できないため、自治体にとって地下水管理は容易ではない。
- 地下水の管理は、日本の法制度では十分に規定されておらず、また、地下水は法律で明確に公共財として規定されているわけでもない。
- 地下水の涵養速度が遅いため、地下水が枯渇したり汚染されたりすると、その回復に長い時間がかかる。
- 地下の地層が市町村にまたがっているため、管理財源の確保も難しい。
熊本県では、一人当たりの水使用量が比較的多いことや、都市化が進んで雨水の浸透が少なくなっていることなどもあり、地下水量が減少している。 また、地下水の水質が悪化している場所もあり、硝酸塩の濃度が環境基準を超えている。
所在地
プロセス
プロセスの概要
地下水管理システムは、複数の行政機関を包含する。このシステムのガバナンスには、流域レベルでの政府間協力と、保全活動への長期的な取り組みが必要である。条例や総合計画に複数の利害関係者間の協力枠組みを明記することは、限られた地下水量の均衡に資する。また、複数の利害関係者が持続可能な形でこの開発枠組みを財政的に支援することも重要である。
ビルディング・ブロック
地下水流域レベルでの政府間協力
国の法律が地下水系を対象としていないにもかかわらず、地下水の管理は40年以上にわたって一連の条例、総合計画、行動計画によって行われてきた。熊本市では1977年に、熊本県では2001年に地下水保全条例が制定された。市と県は1996年、流域17市町村の意見を取り入れた地下水総合管理計画を共同で策定した。その後、2008年に集水域の15市町村からなるグループによって第2版の計画が策定され、4つの優先分野が特定された:1)地下水の流入と流出のバランスの改善、2)地下水の保護と質の向上、3)地下水保全に対する市民の意識の向上、4)関係者間の共通目標の設定である。また、緩和策をタイムリーに実施するため、翌年には5年間の詳細な行動計画が策定された。
実現可能な要因
- 地下水管理のための流域レベルでの政府間協力
教訓
地下水の特性を踏まえると、地下水管理システムのガバナンスには、流域レベルでの政府間協力とその保全活動への長期的なコミットメントが必要である。さらに、地域全体の計画は、洪水管理、利水、環境・生態系保護、文化・教育、経済など、地下水管理の多面的な側面をカバーするとともに、地域の様々なニーズに対応し、多様な専門知識を結集する必要がある。
マルチステークホルダー・コラボレーションによる水源のバランス
条例とマスタープランは、保全管理のための共通システムを確立するために、地域の関係者が協力することを定めている。市の条例に基づき、年間30,000m3以上の地下水を取水する民間企業は、保全計画の策定、実施、モニタリングが義務付けられている。また、県の条例に従って、地下水の涵養に関する報告書を提出する。この連携システムを通じて、行政はさまざまな利害関係者を巻き込みながら、複数の地下水涵養プロジェクトを実現してきた。例えば県は、流域上部の農地所有者、農業協同組合、近隣町村と連携して、休耕田に満々と水を張ることで地下水を涵養する事業を率先して行った。さらに、企業の社会的責任の一環としてプロジェクトに参加している企業もある。農家は硝酸塩の濃度を下げるため、肥料の使用や家畜の排泄物の適切な処理を行うよう求められている。
実現可能な要因
- 関係者間のマルチ・ステークホルダー協働が条例やマスタープランに規定されている。
教訓
地下水は、地表水と比較して水質は高いが、水量は少ない傾向にある。地下水の水量は限られているため、特に地下水の取水を適切に管理するためには、地域住民、学界、民間セクター、NGO、地方自治体など、さまざまな専門家や利害関係者が協力することが効果的である。
地下水管理への融資
財団法人熊本市地下水財団は、地下水保全を目的とした複数の事業や研究活動を財政的に支援するために、熊本市が設立した。財源の大部分は、地方自治体や民間企業の賛助会員からの拠出金である。寄付金の額は、各自治体・企業の地下水取水量に応じて決定される。財団の予算は、地下水の涵養、水質、保全のための活動を推進するために使用される。 財団はまた、独自の方法で市民や民間企業にも協力を呼びかけている。例えば、市民や企業は、地下水涵養地域で栽培された農作物や肉を購入したり消費したりすることで、地下水の消費を相殺することができる。財団は、消費した製品の量を、その消費によって涵養された水の量に換算するサービスを提供し、地下水保全への貢献を証明する証明書を発行する。企業は、この証明書を県に提出する報告書に添付することで、地下水保全への取り組みを証明することができる。また、涵養地域に水田を所有することで、市民や企業が保全活動に参加することもできる。
実現可能な要因
- 市政府が設立した財団
- 地下水保全のために財団が適用しているさまざまな仕組み
教訓
日本では、地方自治体が地下水管理を行うための財源を確保する方法として、一般的に2つの方法がある。一つは、受益者負担の原則に基づいて利用者から料金を徴収する方法である。もう一つは、地下水の保全と涵養のための税として徴収する方法である。熊本の事例のように、これらの財源は、地下水のモニタリング、涵養活動、地下水保全活動、森林保全活動、雨水浸透インフラ整備などに利用することができる。
影響
経済効果:水と森林の保全のための特別税は、年間4兆8,000億円の歳入を生み出している。また、水田を利用した地下水涵養プロジェクトは、民間セクターの参加を促した。農協、財団法人、ソニーセミコンダクタ、山内本店梅屋などの民間企業が資金を提供した。
社会的インパクト熊本県は以前から節水教育を推進してきた。その結果、節水に対する意識は地域で高まっている。例えば、熊本県は過去8年間、水の作文コンクールへの応募者数で全国1位となっている。地下水保全に対する高い意識は、マスタープランの作成への市民参加や、家庭における日々の草の根的な節水努力の基盤となっている。
環境への影響: このような節水活動が始まった2005年以降、1人あたりの1日の水消費量は毎年徐々に減少している。また、「水田プロジェクト」により、地下水の涵養も改善された。
受益者
- 熊本地域15市町村の住民
- 熊本地域の民間企業