ライトレールによるコンパクトシティへの転換
富山県は、日本海沿岸地域を代表する県都として発展してきた。市域面積は1,242km2、人口約42万人で、県土の約3割を占めるが、2010年をピークに人口が減少するとともに、高齢化率も高く、2020年には高齢化率が約3割に達すると推計されている(図1、2)。広大な市域の中で人口減少と高齢化が進み、市街地密度は全国の県庁所在地の中で最も低い。このような人口問題や都市衰退問題に対する社会的関心の高まりを受けて、同市は、公共交通システムに再投資し、近代化された交通回廊に沿って広範な都市機能を集約することで、交通指向のコンパクトなタウンシップに転換する戦略を採用した。
コンテクスト
対処すべき課題
富山市は、2010年をピークに人口が減少する一方、高齢化も進行しており、2020年には高齢化率が約30%に達すると推計されている。 広い市域の人口減少と高齢化の傾向により、富山市は全国の県庁所在地の中で最も低い都市密度を示している。アメリカの多くの都市と同様、富山市の広々とした平坦な土地市場、旺盛な持ち家需要、拡張された道路網は、過去数十年間、都市のスプロールを加速させ、中心街の衰退を悪化させた。それに伴い、富山のライフスタイルは自動車に大きく依存するようになり、自家用車保有台数は全国2位となった(2010年、1世帯あたり1.72台。
所在地
プロセス
プロセスの概要
富山市では、まず市長が長期的なビジョンを設定し、それを市民との緊密な協議を通じて共有するというアプローチが、一連の運営プログラムによって実現され、中心市街地が活力ある交通指向型都市へと変貌を遂げた。具体的には、中心市街地に人を呼び戻すために土地利用のインセンティブが適用され、同時に、中心部の商業ビジネス地区やコリドー沿いの住宅開発への投資だけでなく、これらの地域をうまくつなぐ質の高い公共交通サービスも確保することで、市はこれらの人々の期待に確実に応えている。
ビルディング・ブロック
市民が共有する市長の長期ビジョン
長期的に都市構造の改革に取り組み、官民のさまざまな利害関係者が提供する個々の資本プロジェクトや運営プログラムを同期させるためには、すべての市民がひとつの象徴的なビジョンを持つことが不可欠である。
実現可能な要因
- 市長の強いコミットメント
- 市民との頻繁かつ継続的な対話の機会を設け、市の開発ビジョンを市民による「共有」のビジョンに変える。
- ビジョンを段階的な行動に移すための詳細な運営プログラム
教訓
ビジョンを現実のものにするためには、(1)複数の資金源による資本プロジェクトと、(2)連続した運営プログラムが鍵となる。
具体的には
複数の資金源による資本プロジェクトコンパクトシティの形成というビジョンの実現には、公共交通の再投資や社会インフラの整備など、大規模な資本プロジェクトが必然的に必要となる。予算制約の厳しい小規模都市や周辺都市では、複数の資金源を効率的かつ一貫性のあるプロジェクト・ファイナンス・スキームにまとめる必要がある。
連続的な運営プログラム
近代的なインフラが整備されただけでは、自動的に 都市再生につながるわけではない。長期的には、付加価値のある社会的交流を誘発する「場づくり」の努力が必要である。個人事業主や地域の商業組合は、自治体や交通機関とともに、さまざまな都市運営プログラムや地区管理プログラムを継続的に実施する上で重要な役割を果たす。
土地利用インセンティブ
市場自由保有制度の下では、地元の計画部門が大規模なショッピングモール計画を抑制し、ゾーニングによって個々の土地利用をコントロールすることは必ずしも容易ではない。土地利用を管理し、開発を形成するために、従来の計画や規制制度では不十分な場合、新たな住民をターゲット地区やコリドーに移動させるためには、手厚いインセンティブ(直接補助金、減税、迅速な審査など)が必要となる場合がある。
実現可能な要因
- 直接補助金、減税、迅速な審査を提供する市政府からの実質的な支援
教訓
コンパクトシティの建設という公共ビジョンを収益性の高い方法で具体化するためには、地方自治体が主要な不動産所有者を特定し、強力な民間開発業者を資本事業と運営プログラムの両方に参加させることが重要である。
公共交通への再投資
富山市は、富山駅への新幹線延伸に伴い、旧JR富山港線の線路を活用した日本初のLRT(ライト・レール・トランジット)「PORTRAM(ポートラム)」を導入した。全長7.6kmのバリアフリー駅と低床車両を備えたPORTRAMシステムは、高齢者や身体障害者の乗客を市内のさまざまな目的地までスムーズに運ぶことができ、騒音、大気汚染、CO2排出量の削減など、より広範な環境上のメリットを都市全体にもたらす。重要なことは、富山LRTでは、鉄道建設とシステム運営の役割を官民のパートナー間で分担するために、革新的なプロジェクト・ファイナンス・スキームが適用されたことである。公共部門は、車両、鉄道、車両基地を含むLRTシステムの建設費と、これらの施設の維持管理費のすべてを負担し、複数の地方自治体や民間企業によって設立された運輸事業者は、運賃収入から運営費を回収する。市は、国の道路整備計画や交通事業者からの拠出金を調整し、旧JRの用地取得費を節約することで、資本財源のギャップを埋めた。
実現可能な要因
- 万人のためのユニバーサル・アクセシビリティへの配慮
- 官民連携の革新的なプロジェクト・ファイナンス・スキーム
- 市からの十分な資金援助
教訓
このアプローチを適用する際の注意点は、富山市のケースに限って言えば、車両、鉄道、車両基地を含むLRTシステムの建設費と、これらの施設の維持管理費を賄うだけの十分な資金があったということである。過去の公共交通システムの用地を活用することも有効である。
公共交通コリドー沿いのニュータウンの振興
市は、436ヘクタールを都市核地区、19の公共交通コリドー(ライトレール交通とバス路線を含む)、3,489ヘクタールをコリドー沿線の住宅促進地区に指定し、対象となる住宅建設業者、新築住宅所有者、集合住宅居住者に特別補助金を支給した。その結果、2004年から2009年の間に、促進された交通路線沿線の新築住宅数は1.32倍に増加した。
実現可能な要因
- 公共交通コリドー沿いの住宅所有者への財政的優遇措置
- 公共交通機関のノードや駅から徒歩圏内に商業施設、学校、病院などがある。
教訓
富山県の公共交通沿線開発誘致のアプローチは、特に財政的インセンティブを背景にした場合に成功した。その結果、間接的に都市周辺部での居住を阻害することにつながった。
シティ・コアの活性化
市は、中心市街地活性化のために、さまざまな資本整備事業と都市運営計画を適用した。中心市街地活性化の目玉は、グランドプラザの整備である。グランドプラザは、様々なイベントに対応できるAV設備を備え、特に富山の豪雪地帯に対応するため、全天候型の高天井ガラス屋根で覆われた一大社会的オープンスペースである。 また、民間事業者による24時間利用可能な自転車ステーションを中心市街地に17カ所設置し、自転車シェアリングシステムを構築した。ユニークな再開発スキームと奨励措置により、中央市場や地域コミュニティ施設が建設された。
実現可能な要因
- 市民や観光客を惹きつける中心的な多機能施設の開発(グランドプラザ)
- 施設設計における地域の気候・環境への配慮
教訓
中心市街地活性化の成功の鍵は、高齢者、子供、妊産婦など社会的弱者に配慮し、あらゆる世代に適した多様な活動を提供することである。LRTは、このような層にも自宅から直接、安全にアクセスできるようにすることで、これをサポートする。
影響
経済効果: 交通アクセスが拡大したことで、市の地域経済は大きく活性化した。LRTの運行開始後、沿線にある多くの商業施設や観光施設の集客が増加した(例えば、国の重要文化財の訪問者数は3.5倍に増加した)。さらに、過去20年間、県全体の平均地価が継続的に下落しているにもかかわらず、2013年7月から2014年7月までの期間に、市およびその商業地区の平均地価はそれぞれ0.2%、0.8%上昇した。
社会的インパクト: 再投資された公共交通(ライトレール)システムは、平日で2.1倍、休日で3.4倍の利用者増をもたらした。特に高齢者の日中の外出が増えた。富山市の中心市街地や公共交通沿線の振興住宅地に住む世帯が増えた。
環境影響: 鉄道利用者の約12%が自家用車から乗り換え、年間74トンのCO2削減に貢献した。富山市は、経済協力開発機構(OECD)により、2012年にメルボルン、バンクーバー、パリ、ポートランドとともに、コンパクトシティ構築のベストプラクティスに挙げられた。
受益者
- 富山市民
- 地元商店、土地所有者